「おい!それ、よこせ。…聞こえないのか?よこせって言ってるんだ!」
昼休みはいたるところから賑やかな声が聞こえるが、乱暴な物言いに教室は一瞬で静まり返った。
大柄な男子生徒が廊下から一番近い席のクラスメートに手を出して威圧感たっぷりに立っている。
「こ、これは俺のお昼ご飯で…」
「はぁ?俺様に逆らうのか」
「ま、まさか…」
入学してから日々繰り返されるその光景は慣れるどころか関わりたくないという思いを強くさせる。
永井 大悟は怯む男子生徒から未開封のサンドイッチを奪うと、その場で食べ始める。
短く切り揃えられた派手な赤髪だけでも浮いているが、眉がなく、色付きの眼鏡をかけている強面も一回見たら忘れられない。筋肉質で他の男子生徒より一回り二回りも大きい生徒で、威張りくさっているが誰も逆らえやしない。何をしでかすか分からないその言動に教師でさえ怯んでいる。
「どーも」
大きな口であっという間に食されたサンドイッチと引き換えに、ポイっと出たゴミを投げ捨てる。
「あ?なんか文句あるのかよ」
クラス中の視線を集めていたことが気に食わないのか、大股で教卓まで移動すると、それを蹴りつけた。
その拍子に教卓が数センチ移動する。
「文句あるのかよ!」
今度は一斉に下を向いた生徒たちからは一言も発せられなかった。


