すべてがスローモーションに見えた瞬間。

俺の手をすり抜けて落ちていく朱莉は、儚く切なさをまとい、あの時朱莉の手をつかめなかった俺の右手が今でもあの時つかんだ冷たすぎる空気を覚えている。

「冷た」
そう言って朱莉の手を握る俺。
あの日つかめなかった朱莉の手。

俺がちゃんと朱莉の手をつかんでいれば・・・
朱莉の光を奪わずに済んだのに。

「置いて行ってよ」
そう言って地面を見つめたままの朱莉。

今日は朱莉の勤めるカフェの歓迎会だった。
新しい社員の歓迎会。