「もう、私に縛られてたらだめだよ・・・。」
「何言ってんだ。何も俺は縛られてなんていないだろ。」
「・・・」
「どうしちゃったんだよ。朱莉。何があったんだよ。」
どうしたらいいかわからなくて、俺は思わず朱莉を抱き寄せる。
本心を口にしたら朱莉を余計に苦しめるとわかっている俺は何も言えない。
『好きだ。愛してる。そばにいたい。離れたくない。そばにいさせてほしい。』
そんなこと言ったら彼女を苦しめるだけだ。
言えない言葉の分、俺は朱莉を抱きしめることしかできなかった。

夜風はもう冷たい。
冷えた彼女の体が心配になって、おんぶして部屋に運び、膝にできていた痛々しい傷の手当てをしてから、彼女が眠れるようにベッドに体を横にする。

朱莉の瞳の上に手をあてて、俺は彼女の視界をふさぎながら、こらえきれない感情があふれ出さないように口をかみしめる。

俺がそばに居るからこんなに彼女を傷つけている。
彼女を苦しめている。

わかってる。
でもできないんだ。
朱莉から離れるなんて、この感情を捨てることなんて、できないんだよ、俺には。