その1



「ユウト、私たちは奥の部屋行こう。パパの部屋だから、大人のおもちゃとかあるの。さあ…」


「でも、律也が…」


「あの二人、いい感じになってきたじゃん。チヅルに任せとけば大丈夫だよ。彼だって、アンタと私がイチャイチャしてるの目に入ったんじゃ、集中できないでしょ。見てみなさいよ、目、つぶってるじゃないの、カレ。一生懸命なのよ、何とか異性のチヅルとエッチしようって気持ちで…。アンタとの行為が忘れられないのにさ」


「わかった…」


ヨーコとユウトは身を寄せ合ったまま、互いの親友同士を目に囁くような会話で”場所がえ”に合意した。


***


ヨーコは部屋を出ていく際、チヅルとアイコンタクトを交わし、微妙に意味ありげな笑みを浮かべ合った。
一方のユウトは…、年上のオンナに顔を埋めている律也に視線を落とし、何ともな表情で部屋を後にした。


この時、ユウトの心に去来したものとは…。
少なくとも彼は、思わぬきっかけでココロをときめかせられた、同い年の少年に対する思いやりを具備していたはずだ。


加えて言えば、ユウトと同じ思春期に身を置く彼の性的な不安や、何かを乗り越えなきゃならないという焦り感と言ったものを共有していたのかもしれない。
それは明らかに純心を以って…。


***


律也はユウトとヨーコが部屋を出ていったことには気づいていた。
さしずめ彼の胸中は…、”オレもユウトのように女の人とフツーにできる!今夜、このヒトと…”。
彼は半ば悲壮な自己誘導からくる気負いと戦っていた。



この間、律也のお隣さんは彼を密着リサーチしていた。
その両眼はもっぱら、律也の顔に向けられていたんだが…。
この時点で律也のお隣さん、チヅルの目線は彼の下半身に移動していた。


彼女は律也が性的に興奮してきたことを、まずはしっかりとチェックしていた。


「律也君…。アンタはその年で同性の同級生とエロったらしいけど、オンナとはまだなんでしょ?」


「うん…」


「なら、早めにそれ、知っておいた方がいいよ。その上で自分はやっぱ、オトコだわって言うならそれからでいいし。でもさ、全く女性に感じないってことじゃないんでしょ?」


「うん」


律也のこの言はきっぱりだった。
だがチヅルは、更なる言質をカレに突き付ける。
ここでローティーンの、幼いながらも悶々たるオンナのチヅルは、律也のアタマに肩を寄せ、耳元で呟くように”カマ”をかけた。