その1


ユウトは仲間の輪に戻って行った。
間もなく用を足した数人もトイレから出てくると、彼らは少女たちと共に児童館を出た。


その際、ユウトは律也に手を上げてここでも合図を送ってきた。
律也も笑みを浮かべながら手で会釈を返した。


”この後、ユウトがココへ戻てきたら、二人きりでさっきの続きってことになるのかな…”


律也は先ほどの、何とも妖しい触感を思い出すと、体の芯が熱くなるのを禁じ得なかった。


***


それはコーフンとときめき…、そしてインモラルな行為への罪悪感…。
これらがミキサーで掻き混ぜられた、未知の感覚はすなわち尋常ならざる刺激ということだった。


彼はこの時点で、様々な眠っていたモノを目覚めさせたターニングポイントを自覚し、もう”その先”を迎え入れている自己も認識していたのだ。


ユウトを待つ間の長椅子に腰を下ろしてのわずかな時間は、彼にとって、禁断の部屋へ自らの意思(欲望?)で踏み込もうとする待合室での待機に相当していた。


何しろ、12歳の少年にとってのそのハードル感は、とてつもなくオモいものだったに違いない。
よって、待合での心と頭の整理は必要だった。
当然ながら…。


***


ユウトは確かにココへ戻ってきてくれた。
約束通り…。


長椅子から立ち上がった律也は、少し雨に濡れたユウトの正面へと数歩前に出た。
二人は無言でニコニコしながら顔を見わせている。


この時のユウトと律也…、ふたつのカラダは約2M離れていた…。
これは、 何ともな距離感であったろう。


「2階へ行こうよ。図書コーナーでさ…」


ユウトはさらっとそう言った。
律也は「うん」と言って頷いた。


地味で淡白であるが、二人のやり取りはどこかはじけるようなテンポ感を放っていた。


***


二人は並んで階段を上り、図書コーナーの一番奥に、窓を背を向けた態勢で隣り合って座った。


”ここなら大丈夫そうだ…”


二人はほぼ同じことを胸の中で呟くのだった…。


そして背にした窓の外では、すでに雨は上がっていた。