その1



河合律也が”その彼”に恋したのは、中学に上がる直前だった。


小学校を卒業して中学進学を目前に控えたある日曜日…。
街の児童館で、律也は同級生4,5人と卓球に興じていたのだが…。


同じフロアで同年代の男子7,8人が跳び箱をやっていて、やけにはしゃいでいたので振り返って見た。


「どうやら、あいつら8段を跳ぶようだぞ。たぶん、○○小卒業して今度中学一緒になるタメ連中だぜ、あの8人。まあ、ひとり飛べればいい方だろうな」


そう…、律也達の承知する限りでは、8段となれば確実にクリアできるのはクラスで一人か二人だったから。
ところが…。


***


なんと彼らは8人のうち、5人が8段越しをやってのけたのだ。
傍らで座って観戦(?)していた、年下らしき少女たちがスマホ撮りしながら盛んに拍手をしている…。
熱い視線をむけて…。


「おい、おい…。○○小のタメ、レベル高けーな」


律也の友人たちは、卓球の試合を中断して、間もなく同級生となる彼らに脅威の眼差しを向けていた。


だが…。
ただひとり律也だけは、”違う感情”で彼ら、いや、その中の一人の少年を、純朴な両の瞳で捕えていた。