「そうだね。ほったらかしじゃなかった…。あはは。」

そう言ってもらえると何となく嬉しくなった。
直接、婚約者に会うことはできなかったが、少し前まで彼がここにいたと思うと、同じ空間を共有した事で私と婚約者の関係が少し前進したような気になる。

「寮まで送るよ。」

ガゼボのベンチに置いてあった荷物をすべて持って歩き始めたので、彼の後ろをついていく。

「ありがとう。」

一瞬立ち止まり、私の方を振り返ると

「やっぱり白が似合うな。」

と微笑んでくれた。
彼には好きな子がいるのも知っているし、自分には婚約者がいるのに、その笑顔にドキドキしてしまう。普段は口が悪くて嫌なやつなのに…。

「そのブーケにメッセージカードがついていたの。」

「うん。」

「会える日まで待っていて。って…。」

「うん。」

「正体を明かさずに婚約だけキープするって、彼にとってのゴールは結婚だけなのかしら…。結婚に至るまでの経過は不要なのかなぁ…。私はどんな相手でも、愛を育んだ先に結婚をしたいと思うの。でも、婚約者の彼はそんな事一切望んでいないのかもしれない…。」

「…そんな事ない。彼はお前のことをちゃんと想っているよ。だけど…ただ、伝え方がわからないんだ。直接会えない事情もあるし。」

「ふふっ。頭のいい真宮くんがそう言うならそうなのかもね!」

寮の前に着くとお礼を言い別れた。
贈り物コートをそのまま着て帰ったので、部屋に戻ると咲良さんによく似あっていると褒められた。
学生鞄に入っている荷物などを片付け、ルームウェアに着替えると生徒会室でのクリスマスパーティ、婚約者からの呼び出しメール、そして真宮くんに偶然会った事を話した。
咲良さんからは柳くんとクリスマスツリーを見に行き、近くでシーズンイベントとして設置されていたアイススケートをやった話を聞いた。
とても楽しかったようで、今度、一緒に行こうと誘われた。

「そう言えば、今日、真宮くんは好きな子に会えたみたいだよ。咲良さんは真宮くんの好きな子が誰なのか知ってるの?」

お風呂上がりに2人でフェイスマスクをつけてリンパマッサージをしながら女子トークを続ける。

「いいえ、初耳よ。あの人に恋する心なんてあるのかしら?ふふっ。」

「去年知り合ったって言ってたよ?」

「去年ならアメリカから戻ってきてからかしら?3月までアメリカにいたのご存知?」

「へぇー、知らなかった。」

「どちらにしても見当がつかないですわっ!」

寝る直前まで2人で真宮くんの好きな子を推理したが、誰なのか全くわからなかった。