花嫁は婚約者X(エックス)の顔を知らない

「…緊張してる?」

「あっ、当たり前じゃない!こんな経験初めてだし!」

「…そうか。大丈夫、俺に任せろ。」

 なっ、なに?
 『とちるなよっ!』とか文句言ってくるんじゃないの!?

珍しく優しい口調と表現にドキッとした。
ダンスの曲が流れ始めると、皆が一斉に踊り出す。
真宮くんは言葉通り私が踊りやすいようにリードしてくれていた。

「ほら、顔をあげて。」

練習の時はずっと足元ばかり見ていたけれど、真宮くんのリードのお陰で余裕が出て下を見なくても大丈夫だった。

彼の言う様にゆっくり視線を上げてみる。

 えっ!?

彼の光沢のあるダークグレーのタキシードの胸ポケットには、私のドレスと同じ紺色のチーフが入っていた。

「今日の琴乃、すごく綺麗だよ。」

耳元で囁かれた瞬間、耳まで真っ赤になる。
この数分で起きた出来事に私の脳は理解しきれずにパンク寸前だった。
あの、ダンスの誘い方、優しい言葉をかけリードしてくれる姿勢、ポケットにある紺色のチーフ、そして今の言葉…。

 いつも意地悪な事ばかり言ってくるくせに!
 一体、どーゆー事!?

「おい、ダンスに集中しろよ。」

「わかってるわよ!」

ちょうど私の顔の前にチーフがあることに気づいたのか、

「ばーか、偶然だよ。」

と、いつもの真宮くんに戻っていた。