「ほら、もっとこっちにくっつけよ。」

足を踏んではいけないと、真宮くんとの距離を取っていたのだが、踊りにくいと腰に回していた手に力を入れられ引き寄せられたると、ふわりと真宮くんからシトラスのいい香りがした。
男の子とこんなにくっついたことがないので、真宮くんの恐怖と違う意味で緊張して耳まで赤くなる。

「おい、下ばっかり見てないでこっちを見ろよ、社交ダンスなんだから下向いてたら優雅さに欠けるだろ!」

「そんなこと言ったって下を見てないと足踏んじゃうわよ!」

売り言葉に買い言葉。私の口調も強くなる。

上を向けない理由は他にもあった。割と長身の真宮くん、何気に顔だって悪くない。こんなにぴったりくっついて恥ずかしくないわけがない。耳まで赤くなっている姿を彼にだけは絶対に見られたくなかった。
そのまま最後まで下を向いたまま踊り続け、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴ると離れ際に『チっ』と舌打ちされてしまった。

きっと、完璧な真宮くんには私のたどたどしいダンスは気に入らなかったのだろう。
本番では迷惑をかけない様に、空いた時間を見つけると咲良さんにダンスを見てもらい寮でも練習をした。