琴乃が聖麗学園へ編入する前から彼女のお父さんと婚約の承諾のために連絡を取ってはいたが、編入後は定期的にお宅へ伺い、近況報告をしていた。

一度琴乃が婚約者を自宅前で見かけたというのはこの報告に訪れていた時のことだろう。

彼女の父はいつもただカウンセラーのように黙って俺の話を聞いてくれていた。彼女の父からの結婚の条件は2人が恋愛をして結婚をすること。なのでお見合いという形では引き合わせてもらえなかった。俺が男よけのためにお願いした婚約話も適当な理由、俺が振られたあとも簡単になかった事にできるよう政略的な婚約として琴乃に話してくれていた。
振られることが予め頭に入れられているのは癪だが、彼女を繋ぎ止めるには仕方がない。
真面目な琴乃だから、今ではその男よけが俺をも拒絶する壁となっていた。

過去の俺は冷徹だのロボットだの社内や学内では有名だったようで、彼女の父が1番気にしていたのは俺の人間性だった。

『アメリカの君の会社に以前私の部下が異動になっていてね。向こうでの働きぶりは耳にしている。』

と、出会った頃に言っていたので過去に行った無情なリストラも知っているのだろう。
あの時はやむを得ない、最善策だと信じていたが、琴乃と出会った影響なのか今ではもう少し妥協点を探るべきだったのかもしれないと思うようになっていた。

信頼を得るためには自分の口からすべてを正直に話すべきだと判断した俺は、花見の後に琴乃の父にアポを取り、今日のことをすべて話をしに家へ行った。

「…というわけで、彼女を怖がらせてしまったかもしれません。」

琴乃の父はいつものように黙って俺の話を聞いていたが、話し終えた後に珍しく言葉をくれた。

「晴翔くん、今日の君は少し行き過ぎた点もあるのが正直なところだが、10代の恋愛なんて感情をコントロールできないのが当たり前なんだよ。それだけ本気で相手に夢中になっている証拠なんだ。私は今までの君よりか感情をむき出しにできる君の方が好きだがな。それだけ娘のことを好きになってくれて嬉しいと思う。」

娘を怖がらせてしまった俺に対してなんともありがたい言葉だった。

「ありがとうございます。」

「あとは琴乃の気持ち次第だな。こんなに手を尽くしてきたんだ。これからは君を応援したいと思うよ。親ではなく同じ男として。」

「感謝します!!」

「君が二十歳超えていればなぁ~。このまま一杯付き合ってもらうんだが。はははっ。」

「いづれ朝までお付き合いしますよ。」

「あぁ、是非ともそうしたいね。その日が待ち遠しいよ。」

琴乃に対しては大失敗をしたが、逆にこちらでは成功をなし強力な味方ができた。

「なぁ、晴翔くん、もう、まどろっこしい架空の婚約者なんてことを止めて一度しっかり会ってみてはどうだろう。」

お見合いの様な引き合わせをずっと拒んでいた琴乃の父からの提案に俺は安堵した。

 …やっと認められたんだ。

来月の彼女の誕生日に俺の両親も含め一度食事会をする約束をし、その日にすべてを琴乃に打ち明けることになった。
計画は狂ったが、俺の気持ちは既に琴乃に伝えてある。逃げられないよう後は攻め切るしかないのだ。