「ねぇ、あの人でしょ?」

「あー、あの変人で有名な」

「でもなんか最近嫌な話聞かなくなったよね」


コソコソ、ヒソヒソ。

廊下にただ立っているだけで、こんなにも色んな声が聞こえることに最初は戸惑った。


けどもう今は気にしてない。気にならない。



「ゆーりセンパイ」

「あ、メグくん。やっと来た」


1年生の教室から出てきたメグくんは、わたしを見つけるなりポンと頭を撫でた。


廊下の窓の光が差し込んで、その金色の髪を照らしている。


「わざわざ来なくても玄関待ち合わせでよかったのに。1年の教室に来るの嫌じゃねぇの?」


会って早々わたしの心配をしてくれるメグくんに、ふふっと笑みがこぼれた。


「うん、全然気にしないよ」

「さすがセンパイ」

「あ、今変人って思ったでしょ」

「えー、どうかな」


クツクツと笑いながら、メグくんはわたしの手を取って「行こっか」と歩き出す。