彼は少し早や歩きで次の鉾へ向かい始めた。
理佐「え、待ってよぉ……」
と、私も早や歩きで彼を追いかけた。
そして二筋ほど進み細い通りへ入り次の鉾の前まで来ると彼は立ち止まった。
理佐「西野くん、待ってよぉー」
と、彼の袖口を掴んだ。
すると彼は……
義雄「あ、ごめん……つい……」
と、私のほうを見て言った。
義雄「あ、これ放下鉾て言うんだ……太陽と月と星の三つの光が地上を照らすのを表してるんだよ」
理佐「そうなんだ……」
と、相槌を打ったが彼は何かを考えているようでその後を語り始めなかった。
私は彼が怒っているのかと思って声をかけてみた……
理佐「ごめんね、なんかみんないつもの私に対してみたいに調子に乗っちゃって……」
と、言ったが彼は…
義雄「………」
と、何も話そうとはしなかった。
理佐「どうしたの……」
と、横顔を覗き込むと……
義雄「そうだ!!『すはま鉾』だ!!」
と、突然大きな声で言った。
理佐「えっ!!」
と、私が驚くと……
義雄「そうそう『すはま鉾』! 洲浜の形してるから『すはま鉾』て別名なんだよ!」
理佐「え………?」
義雄「ん………?」
義雄「どうしたの?」
理佐「いや………私、てっきり怒ってるのかと……」
義雄「え、何が? 何で怒るの?」
理佐「いや、みんなが……からかうから……」
義雄「え? ………あー、あいつらいつもあんなんだから気にしないで!」
理佐「え、だって早や歩きで行くから怒ってるのかと……」
義雄「え? いや、次の鉾を早く見たかったから……」
理佐「なんだ、そうだったの?」
と、彼は私が気にするようなことは全く思っていなかったようだった。
そしてふと振り向くと後ろには誰も付いてきていなかった。
義雄「あれ?あいつらどこ行っちゃったんだよー」
理佐「え……でも私たちが先に行っちゃったから…」
義雄「あ、そうなの……?」
と、彼は少し考え込み……
義雄「いいや、また後で合流出来るでしょ?しばらく二人で見てまわろうか?」
理佐「え、いいのかなぁ……」
義雄「うん、大丈夫!もしもはぐれたら最初の待ち合わせ場所で、て言ってたから……」
理佐「そうなの? 大丈夫かな……」
義雄「うん、少しだけ見に行こうよ」
と、彼は歩き始めた。
私も仕方なく後を付いていくことにした。
そして彼は一つ一つの山鉾の説明をしてくれた。
私は彼と二人で居られることが嬉しくてあまり頭には入ってこなかったけど……
理佐「西野くんさぁ……こんなに祇園祭のこと覚えられるのに歴史は何でダメなの?」
義雄「え……あっ、ホントだね!祇園祭て歴史っぽいよね」
理佐「フフフ、ホント可笑しい♪」
と、話していると彼は急に立ち止まり私に向き合って目を見つめてきた。
理佐「え、何……? どうしたの?」
と、言ったが彼はそのまま私の目を見つめ続けた。
私は鼓動が高まり言葉が出なかった。
すると彼は……
義雄「ごめん、ちょっとこっち来て!!」
と、私の手を強く握り路地のほうへ入っていった……
第百九十九話へつづく…