「ありがとう。ランハートがプレゼントしてくれたのよね」


 ドレスのデザインを決めたのはわたし自身だけれど、仕立屋等の手配は全部ランハートがしてくれたって聞いている。現状自分で稼いでいるわけじゃないし、お金を使うのは得意じゃないから、贈ってくれて正直とてもありがたい。


「ええ。婚約者にはドレスを贈るものと相場が決まっていますから」

「――――――わたし、まだあなたの婚約者になった覚えはないんだけど」


 不敵な笑みのランハートをじとっと睨みつけつつ、わたしは思わず唇を尖らせる。


「そうですね。姫様のおっしゃる通り、まだ(ルビ)、婚約者じゃありません。ですが、近い未来にそうなれるよう、励みますよ」


 そう言ってランハートはわたしの手をギュッと握り、手の甲に恭しく口付ける。


(――――ホント、慣れていらっしゃる)


 流れるような所作に舌を巻きつつ、トクントクンと胸が高鳴る。夜会会場が扉を挟んですぐ向こう側まで迫っていた。