「ようこそいらっしゃいました、姫様」


 ランハートに出迎えられ、わたしは屋敷へと足を踏み入れる。
 丁寧に撫でつけられた髪に、高そうな夜会服。少し離れた所からでも感じられる甘い香水の香り。ランハートのことはよく知っている筈なのに、普段より大人っぽい雰囲気も相まって、何だか別人のように見えてくる。
 だけど、彼の胸ポケットから覗くハンカチは、紛れもなくわたしが縫ったものだった。


「出迎えありがとう。だけど、主催者が会場を離れて良かったの?」

「もちろん。今夜の宴は姫様のために開かれたものですから。僕が姫様をエスコートしないでどうするんです?」


 そう言ってランハートはわたしに向かって手を差し伸べる。夜という時間帯がそうさせるのか、はたまた場の雰囲気のせいか、何だか無性にドキドキしてしまう。緊張を押し隠してランハートの手を取ると、彼は満足気に微笑みつつ、ゆっくりと歩き始めた。


(何だかドキドキしちゃうなぁ)


 王太子様の葬儀以降、城の外に出るのは本当に初めてのことだ。ここに来るまでの間だってずっとドキドキしていたし、着いたら着いたで、普段とは少し違った様子のランハートのせいか、ソワソワとして落ち着かない。