「姫様、何かわたくしに御用でしょうか?」

「あっ、うん。用というかお願いなんだけど、今度ランハートの主催する夜会に出席することになったの。だから、エリーにも色々と準備を手伝ってほしいなぁと思って。ほら、ドレスとか髪型とか、エリーが一番詳しいでしょう?」

「えっ……ええ、けれどわたくしでは――――――」


 エリーはそんな風に言葉を濁らせる。わたしは小さく首を傾げた。


(やっぱりだわ……最近のエリーは何かがおかしい)


 いつも凛として、堂々とした佇まいだったエリーが、ここ最近は何かに怯える様に身を縮ませ、誰かの陰に隠れていることが多い。
 体調が優れないと休みを申し出られることも多くて、かなり心配な状況だ。医師の診療を受けるよう勧めているのだけど、いつも『診察は不要です』って返ってくるので、他にしてあげられることが見つからない。

 悩みがあるなら話してみて欲しいと思うけど、主人と侍女の立場ではそれも中々難しいのだろう。わたしに主人としての力があれば、何とか出来たのかもしれないなぁなんて思うと、もどかしくて堪らなかった。


(前みたいにわたしから頼られて元気が出るってわけでも無いみたいだし)


 知らない間に彼女の気に障ることをしてしまったのかもしれない――――そんな風に色々と勘繰って、モヤモヤしてしまう。


「申し訳ございません、姫様。他の侍女と相談して、最善を尽くしますわ」


 ようやく口を開いたエリーが口にしたのは、彼女らしくない後ろ向きな言葉で。わたしは心の中で小さくため息を吐くのだった。