(さてと)


 隠し通路に続く扉に鍵を掛けつつ、わたしは小さくため息を吐く。それから、部屋の端っこにある大きなベッドにダイブした。古くて小さな部屋だけど、掃除や洗濯は行き届いているらしい。全然埃は舞わなかった。


(そりゃそうか……お城だもんね)


 ここが何のための部屋なのかは分からないけど、城内にある以上しっかりと管理されているのだろう。疲れた頭でぼんやりとそんなことを考える。


(まさかこんなことになるなんて思わなかったなぁ)


 つい数時間前まで、王室なんて遠い雲の上の世界だと思っていた。一生関わることは無いだろうと思っていたのに、人生何が起こるか分からない。
 とはいえ、それも明日の葬儀の間だけ。その後はお父さんとお母さんの元に戻って、また『ただのライラ』としての生活に戻る。


「――――王太子様、かぁ」


 正直わたしは王太子であるクラウス様――――実の父親のことをあまり知らない。よく王都に御出ましになって国民と交流をしていたとか、遠くまで視察に行っていたとか、そういうことは噂に聞いているけど、顔も見たこと無いし人となりも分からない。


(明日、わたしはどんな顔をすれば良いんだろう)


 泣いたり哀しい顔をした方が良いってちゃんと分かってる。だけど、それって案外難しいんじゃないかなぁなんてことを思う。