それは、ランハートに渡すための刺繍が出来上がり、彼をお茶会へと誘った時のことだった。


「夜会?」

「ええ」


 わたしの問い掛けにランハートは笑顔で答える。シルビアが居ないためか、今日の彼は毒気が少なく、幾分話しやすい。ソファに優雅に腰掛け、紅茶を楽しむランハートは、中々に絵になる貴公子ぶりだった。


「姫様に刺繍のお礼をと思いまして」

「お礼って……だけどこれ、元々あなたが贈ってくれた布と糸だし、わたしは未だ公務デビューしてないもの」


 お礼にお礼を返されたらキリがないし、公に姫と呼べるか微妙な立ち位置のわたしが、夜会なんて大層なものに出席して良いのだろうか。そんなわたしの疑問を感じ取ったのか、ランハートはクスクスと笑った。


「ああ……夜会と言っても極小人数、内輪の人間を集めた非公式のものですし、既に陛下の了承も得ています。姫様もいきなり公務に出るより、少しずつそういう場に慣れた方が良いだろうからって言ってましたよ」

「そう。なんか……ランハートってわたしよりおじいちゃんと仲良しよね」


 毎度毎度、ランハートの根回しの速さには感心してしまう。別におじいちゃんに裏を取っているわけじゃないけど、彼のこの行動力とかを鑑みたら、多分本当のことなんだと思う。


「共に過ごしてきた時間が違うだけですよ。それに、陛下は姫様のことを殊の外大事に思っていらっしゃいます」

「そりゃあ、唯一の孫――――跡取りだからね」


 ほのかに唇を尖らせつつ、わたしはふいと顔を背ける。