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 エリーは淑やかに、けれど足早に城内を移動していた。


(少しでも早く、姫様のご両親に届けないと)


 彼女よりも一つ年下のライラは、ある日突然自分の出自を知り、戸惑いながらも次期国王になるために努力を重ねている。
 王族というと、どこか人形のような完璧な人間を想像しがちだが、平民育ちのライラはよく笑うし、よく凹む。それを好まぬ貴族も多かろうが、同年代のエリーとしては共感できるし、人間味があって良いと感じている。

 そんなライラにとって、育ての親がどれ程大切な存在なのか、エリーはきちんと理解していた。


(きっと本当の娘として、大事に大事に育てられたのよね)


 ライラは心根の素直な娘だ。エリーを初めとした侍女にも明るく優しく接してくれるし、意見に耳を傾けてくれる。家族から虐げられたり、心に孤独を抱えた人間はあんな風にはならないだろう。

 それに、平民出身ということを感じられない程、ライラは初めからある程度の教養を身に着けていた。もちろん、王位継承者として、という意味であればまだまだだが、下地が既にあるというのは大きい。


 けれど、平民の生活を経験した王が立つということが持つ意味は、ライラ自身が考えるよりもずっと重く、大きい。
 国民達は既にライラの存在を知っている。王太女としての正式なお披露目はまだだが、新聞や雑誌等では連日、ライラについての報道がなされているし、国民の期待も日に日に高まっている。それらの事情をライラは知らない。情報統制が為されているからだ。

 けれどライラならきっと、プレッシャーと向き合い、色んなことを吸収しながら、王族として国を引っ張って行ってくれるだろう――――ついついそんな風に期待をしてしまうのだ。