「よしっ……完成っと」


 額に滲んだ汗を拭いつつ、わたしは満面の笑みを浮かべる。
 目の前には刺繍を施した2枚のハンカチ。どちらも父と母に向けたものだ。お世辞にも出来が良いとは言えないけれど、心を込めて一針一針縫ったし、模様が目立たないような糸と布を選んだし、元々の素材が良いから、普段使いしても恥ずかしい目には遭わない筈――――そう信じたい。


(どうしよう……誰かとこの感動を共有したい)


 うずうずしながら周囲を見回すと、侍女達が口々に褒めてくれた。我ながらちょろいなぁと思うけど、お世辞だろうが嬉しいものは嬉しい。ありがとうって応えつつ、予め用意しておいた手紙を取り出す。


「エリー、これを届けてほしいの。手配してくれる?」

「はい、姫様」


 そう言って微笑むのは筆頭侍女のエリーだ。お淑やかだけどしっかり者で、すごく責任感が強い。多分だけど、わたしの侍女を務めるにあたって、影でめちゃくちゃ努力をしてくれているんだと思う。毎日のように新しいお化粧のやり方や髪型の結い方なんかを提案してくれるし、部屋でわたしがリラックスできるよう、アロマや本、お花を取り寄せてくれたりとか。インクや筆ペン、紙なんかも可愛いものを用意してくれたり、すごく細やかな気遣いの出来る女性だ。

 彼女はいつも、わたしからの両親への手紙を届ける手配をしてくれている。今回も予め包装紙とリボンを用意してくれていたらしく、綺麗に梱包されたハンカチにわたしは瞳を輝かせた。