「凝っているわけでは……折角覚えたから、練習してるの。シルビアと一緒に楽しめるし」


 本当は『苦手だから』と言ってしまえたら楽なのだけど、王族ってのは周囲に弱味を見せてはいけない生き物らしい。アダルフォからの鋭い視線に、わたしは必死で言葉を濁した。


「そうでしたか。楽しめる趣味があることはとても良いことですね。姫様の可憐な印象に合っていますし、とても素敵なことだと思います。是非、これからも続けてください」


 バルデマーはそう言って、穏やかに微笑む。思わぬ反応に、わたしは思わず首を傾げた。


(絶対『姫様の作品が欲しい』って言われると思ってたんだけどな……)


 けれど予想に反し、バルデマーは眩し気に目を細めつつ、こちらを真っ直ぐに見つめている。何だか居た堪れなくなって、わたしはそっと目を逸らした。


(こういう時、なんて返せば良いんだろう……)


 ありがとうって素直に返すのは恥ずかしいし、『可憐じゃない』等と謙遜するのも王族という身分的には宜しくない。恐らくは前者が正解なんだけど、そうと分かっていても、それを実演できるかどうかは全くの別問題だ。まだまだ王族として振る舞うことに、戸惑いもあれば照れもある。慣れなきゃいけないとは思っているけれど。