「どうなさるおつもりです、姫様?」


 ほんのりと眉間に皺を寄せつつアダルフォが尋ねる。どうやらアダルフォは、ランハートのやりようを好ましくは思っていないらしい。わたしは思わず小さく笑った。


「仕方がないから縫うわ。布も糸も、こんなにたくさん貰っちゃったし。多分ランハートなら、わたしの下手糞な作品を贈られたところで、慰めもしないしお世辞も言わないでしょう? かえって気が楽かなぁって」


 恐らくランハートにとっては『わたしから贈り物をされる』実績こそが重要なのだろう。これを機にわたし自身に取り入ろうなんて考えていなくて、周囲にアピールできる客観的な何かが欲しいだけなのだ。そう考えると、変に肩肘張る必要が無いし、ハードルはぐっと低くなる。


 問題は――――――――



「姫様は今、刺繍に凝っていらっしゃるとか」


 声の主は朗らかな笑みを浮かべつつ、ほんのりと首を傾げる。ランハート同様わたしの婚約者候補であるバルデマーだ。


(やっぱりね……)


 城内に噂が広がっているのに、バルデマーが言及をしない筈がないと思っていた。薄っすらと笑みを浮かべつつ、わたしは小さく首を横に振った。