善良そうな顔つきの講師を思い浮かべつつ、わたしは唇を尖らせる。
 余計なことを――――そう口を吐いて出そうになったけど、多分彼女が悪いわけじゃない。恐らくはおじいちゃんから敢えてそうするよう指示をされているんだろう。


 わたしに与えられた時間はほんの数か月――――。

 
 その間に、配偶者として相応しい人を選ばなければならない。
 王太子殿下の喪が明けて、晴れて王太女としてわたしがお披露目されるその時に、未来の夫が並び立つ――――それがおじいちゃんの描いた未来図だ。


「一体、どうなさるおつもりですか、姫様?」

(さて、どうしたものか)


 今の段階でバルデマーとランハート、どちらの方がより優れているとか、好みってことは無いし、他に婚約者候補として名乗りを上げようって人も思い当たらない。正直言って身内以外に渡せるような刺繍の腕じゃないし、知らんぷりをするっていうのも手だと思う。


「――――考えとくわ」


 答えつつ、わたしは再び手を動かし始める。面倒なことになったなぁって心から思った。