「ところで姫様、そのハンカチ、どなたに贈られるのです?」

「えっ? ああ、両親……わたしを育ててくれた二人に贈りたいの。二人なら下手糞な刺繍でも、心から喜んでくれるだろうから」


 言いながらわたしはそっと目を細める。

 ここに来て以降、数日おきにわたしは両親に向けて手紙を書いている。だけど、未だに二人からの返信は届いていない。
 聞くところによると、王族宛の手紙っていうのは検閲があるらしいので、そこで止まっているのかもしれない。……そう思ってはいるものの、寂しいものは寂しい。もしかしたら二人は、わたしのことを想っていないんじゃないかなぁって不安で、胸が押し潰されそうだった。


「まぁ! わたくしはてっきり……」

「てっきり?」


 シルビアは頬を染め、気まずそうに視線を逸らす。わたしは首を傾げつつ、シルビアの返答を待った。


「そのぅ……婚約者候補のどなたかに贈られるのだとばかり思っておりましたわ」

「えっ、何で?」


 どうしてそんな風に思われたのか、その理由がちっとも解せなくて、わたしはそっとアダルフォに目配せをする。


「――――講師の女性が吹聴しているのです。姫様が刺繍入りのハンカチを誰かに贈ろうとしている、と。貴族たちの興味関心は今、姫様が誰とご婚約なさるかに集まっていますから……自然、相手は婚約者候補の誰かだろうということに」

「嘘っ…………」