(……あれ?)


 気づけば、わたしは馬車に乗せられていた。そうと気づいたのは馬車が動き出す時で、本当に放心状態って奴だったんだと思う。


「ライラ!」


 窓の外にはお父さんとお母さんがいた。二人とも涙を流しながら、わたしの名前を一心不乱に呼んでいる。わたしが気づかなかっただけで、多分ずっと呼んでくれていたんだろう。馬車を追いかけるようにして、二人は必死に走っている。


「お父さん」


 背が高くて、おおらかで、最近少しぽっちゃりし始めた大好きなお父さん。子どもの頃、抱っこをせがむ度に『可愛い』って言いながら、たくさんたくさん抱き締めてくれた。


「お母さん」


 美人で少し抜けた部分もあるけど、とっても優しい大好きなお母さん。何があっても味方になってくれる、わたしの心の支えだった。


(生まれとか……そんなの関係ない。何があっても、わたしにとっては二人が両親だもの)


 二人だってわたしのことを本当の娘だと思ってくれている。絶対そうに違いない。
 わたしは大きく息を吸うと、二人に向かって手を振った。


「王太子様の葬儀が終わったらすぐに帰るから! 絶対、二人の所に帰るから! その時にゆっくり話を聞かせてね!」


 馬車の外の二人に聴こえるよう、わたしは声を張り上げる。二人は顔をクシャクシャにしながら、何度も何度も頷いていた。