正直言って、ランハートの言う通りだった。
 城内でわたしに話し掛けてくる貴族は皆、野心に燃えた瞳をしている。その癖『人柄に惹かれた』だとか『可愛らしい』だとか、そういうおべっかばかりを口にするので、内心イライラしていたのだ。


「だったら、姫様の心を掴もうとするより、王配として如何に有能かをアピールした方がずっと良い。良い子ぶりっこは疲れるし、腹を割って話した方が、互いに時間を無駄にしなくて済む。
姫様、僕は性格が悪い分、良い働きをしますよ? 外面が良く、独自の情報網を確立していますし、血筋だってこよなく良い。顔だって悪くないと自負しておりますし、民からの人気稼ぎも可能です」


 ランハートのセリフに、わたしは静かに息を呑む。好むか好まざるかはさておき、彼の言うことには一理ある。耳触りの良い綺麗ごとの何倍も心を揺さぶられたのは確かだった。


「では、今日はこの辺で失礼いたします。
姫様、次回は邪魔者なし――――二人きりでお茶をしましょうね」


 そう言ってランハートは、わたしの頬に触れるだけのキスをする。思わぬことに目を見開くと、ランハートはここに来た時と同じ、満面の笑みを浮かべた。


「姫様……大丈夫ですか?」


 アダルフォが眉を顰めつつ、そっとハンカチを差し出す。どうやら己の身分を鑑み、口を挟むことが出来なかったようだ。困惑した様子で、ランハートの去っていった方角を見つめている。


「わたしは大丈夫だけど」


 向かいの席ではシルビアが、静かに怒りの炎を燃やしている。声を掛けるのが憚られる程、ランハートに対して憤っているようだ。


(何だかなぁ……。とりあえず、おじいちゃんに話を聞かないと)


 密かにそう決意しつつ、わたしは小さくため息を吐くのだった。