「王位継承者教育なんて疲れるでしょう? 以前伯母から『妃教育が相当大変だった』って話を聞いていたから、平民として育った姫様は尚更大変だろうなぁって心配していたんです。僕なら堪らず逃げ出しちゃいそう」

(伯母? 妃教育って……)


 首を傾げつつ、わたしは目を瞬かせる。


「実は僕、王太子妃ゼルリダ様の甥っ子なんです。おまけに、祖父が陛下の弟なので、姫様とははとこ同士にあたるのですよ?」


 わたしの疑問に答えるように、ランハートは情報を付け加える。


「そうなんだ」


 なるほど、おじいちゃんがランハートに対して親し気に話し掛けた理由がよく分かる。わたしはほぅと息を呑んだ。


「姫様、この男に気を許してはいけませんわ」


 けれどその瞬間、シルビアがそう言って眉を吊り上げた。そのあまりの剣幕に、背筋がブルりと震える。皆の視線がシルビアへと注がれた。


「もしも姫様が現れなければ、王位を継承するのはこの男だった可能性が高いのです。姫様を恨んでいたっておかしくありません。王位を奪還しようと企てている可能性だってございますのよ?」


 シルビアの言葉を聞くと、ランハートは声を上げて笑いつつ、ほんのりと首を傾げた。