先程までの和やかなムードが一転、ピリピリとした緊張感がわたしの部屋を包んでいる。


「姫様、僕のことを覚えていらっしゃいます?」


 けれど、きっかけを作った張本人は、わたしの隣でニコニコとお茶を飲んでいる。


「ランハートよね? 殿下――――父の葬儀でお会いした」

「そうです! 良かった、覚えていて下さったんですね」


 そう言ってランハートはわたしの手をギュッと握る。その瞬間、向かいの席からフンと蔑むような笑い声が聞こえてきた。


「姫様、そのような者を覚えておくメリットはございません。口先だけで、女にだらしなく、禄でもない男ですもの。姫様はこの国の唯一の後継者である尊い御身。この男に関わるのは時間の無駄でございますわ」


 ハッキリ、キッパリと毒づきつつ、シルビアは花のような笑みを浮かべる。


「嬉しいなぁ~~。そんな禄でもない僕のことを、シルビアちゃんは詳細に覚えてくれているんだものね」

「…………っ!」


 けれど、ランハートも負けてはいなかった。朗らかな笑みを浮かべつつ、シルビアが絶妙に言い返しづらい返答をする。


「しばらくの間は姫様もお忙しいかなぁってご遠慮差し上げていたんですが、最近はバルデマーと一緒にお茶をしていらっしゃると噂を聞いたものですから。僕も是非、姫様と親交を深めたいなぁって」

「はぁ…………」


 なんて答えるのが正解か分からないまま、わたしはそっと首を傾げる。ランハートは軽く目を細めると、そっとわたしの顔を覗き込んだ。