「公爵令息ともあろう御方が不躾な……取次すらも待てないだなんて、嘆かわしいことですわ」


 わたしは思わずギョッと目を見開く。
 声の主は当然、シルビアだった。顔は笑っているが、目がちっとも笑っていない。先程までの柔らかな物言いと正反対の刺々しい口調に、わたしは思わず身を竦めた。


「やっほーー、シルビアちゃん! 今日も元気に怒ってるね? そんな顔しちゃ、折角の美人が台無しだよ?」


 けれど、ランハートは全く意に介していない様子でニコニコと楽し気に笑っている。


(なんか……初めて会った時と口調が違うんですけど)


 あの時はおじいちゃんの前だから、堅苦しい喋り方をしていただけで、恐らくはこちらの方が彼の素なのだろう。わたし自身、堅苦しいのは好きじゃないし、こちらの方が気楽だから、不敬だとか言うつもりは毛頭ない。


(問題はシルビアの方よ)


 あんなにも可憐で優しくて穏やかだったシルビアが、今や瞳を吊り上げてランハートを睨みつけている。いや――――それが悪いって訳じゃないけど、あまりのギャップに困惑せざるを得ない。


「姫様――――この二人、信じられないぐらい仲が悪いのです」


 アダルフォがやって来て、そっとわたしに耳打ちする。


「――――でしょうね」


 答えつつ、わたしは思わずため息を吐いた。