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 バルデマーの執務室はこじんまりとした部屋だった。城内にあるため、豪華なのは間違いないけど、普段ただっぴろい部屋を宛がわれているせいか、新鮮に感じるし妙に落ち着く。

 けれど、そんなわたしとは裏腹に、アダルフォは何だか不機嫌だった。
『姫様をこのような部屋に案内するなんて』みたいに思ってるのかなぁ、なんて予想しつつ、知らんぷりを決め込む。
 だって、バルデマーはおじいちゃんから許可を得ているっていうし、文官さんがどんな場所で仕事をしているのか知るのも、結構大事じゃないかなぁ。

 そうこうしている内に、侍女の一人が二人分のティーセットを運んできてくれた。わたし付の侍女じゃないため、少しばかし緊張している様子だ。「ありがとう」って伝えたら、顔を真っ赤に染めていた。


「それで……城での生活は如何ですか? 結構なスパルタ具合と噂になっておりますが」

「えっ、噂……ですか?」


 口にしつつ、何とも言えない気恥ずかしさが襲い掛かる。動揺を隠さなきゃと思いながらも、頬が紅く染まった。


「え? ……あぁ! 噂と言っても、私のような極一部の貴族の間の話ですよ。相当ハードなスケジュールと負担を強いられているのに、姫様がとても頑張っていらっしゃると。呑み込みも早く、我が国の将来は安泰だと、皆で話していたのです」


 そう言ってバルデマーは朗らかに笑う。それでも、わたしの心境は複雑だった。