***


「――――今、何と?」


 己の耳を疑うのはこれが初めてだった。わたしは大きく首を傾げつつ、眉間に皺を寄せる。


「ですから、姫様には急ぎ、城にお戻りいただきたいのです」


 そう言うと、向かいのソファに腰掛けた壮年男性は真剣な表情で身を乗り出した。騎士装束を身に纏った、如何にもお偉いさんといった風貌の男性だ。

 家に帰ったわたしを待っていたのは、物々しい数の馬と豪華な馬車、それから数人の騎士だった。問答無用で応接室に連れて行かれたかと思うと、開口一番『姫様、城にお戻りください』なんてよく分からないことを言うんだもの。絶対聞き間違えだと思ったけど、耳の方はどうやら問題なかったらしい。コホンと咳ばらいをして、わたしは更に首を傾げた。


「一体なにを仰っているのか……わたしは姫じゃありませんし、わたしの戻るべき場所はこの家以外にないんですけど」


「ね?」と同意を求めて両親に目配せすると、二人は少しだけ目を見開き、ほんのりと表情を曇らせる。思わぬ反応だった。


(どういうこと?)


 わたしは目を見開き、両親と騎士とを交互に見る。