『お父さん、お母さんへ

 二人とも元気にしてる? わたしは元気――――と言いたいところだけど、寂しい日々を送っています。

 王宮に連れてこられて今日で五日目。とっても美味しいけど、毒見が終わった後の冷めたご飯しか食べられていません。
 何より嫌なのが、一人でご飯を食べなきゃいけないこと!おじいちゃんと会ったのは王太子様の葬儀の日だけで、以降は本当にお城の中にいるのか怪しい程、存在を感じられていないの。あまりにも寂しいから、仲良くなった侍女の子とか、わたし付きになった騎士のアダルフォに『一緒に食べよう?』って誘ったんだけど、『とんでもない』って断られてしまったわ。
 お父さんとお母さんと一緒に小さなテーブルを囲って、その日あった楽しかったことや嬉しかったことを話していたのが嘘みたい。温かくて美味しい、お母さんのご飯が何よりのご馳走だったって思い知った。

 だけど、ただ寂しいだけじゃなくて、息つく間もないぐらい忙しいんだ。
 毎日毎日、歴史やら外国語やらマナーやら政治やら、入れ代わり立ち代わり色んな先生が来るものだから、ちっとも顔と名前が覚えられないの。元々本は好きだったし、お父さんやお母さんが色んなことを教えてくれたから、勉強自体はそこまで苦じゃないんだけど、あまりの過密スケジュールでクタクタよ。だから手紙を書くのも遅くなっちゃった。薄情な娘でごめんね。

 ――――既に、あの日わたしを連れて行った騎士のランドールから聞いていると思うけど、六か月後、わたしは王太女になるんだって。危ないし、することが沢山あるから、しばらくの間は城から出たらダメだって言われちゃった。

 でもさ、よく考えなくても酷くない?お父さんとお母さんに話すら碌に聞けてないし、ついこの間まで街を自由に歩き回っていたんだもの。危ないことなんて何もないのにさ……わたしには人権ってものがないみたい。仕方がないって分かっているけど、気持ちは追い付かないものなんだよね。

 早くお父さんとお母さんに会いたいなぁ。二人の声が聴きたい。
 ねぇ、帰ったらまた、わたしのことを抱き締めてくれる?いつまでも二人の娘だって思っていて良い?

 二人も手紙を書いて送ってね。忙しいのは分かってるけど、できたら会いに来て欲しいなぁ。
 あっ、エメットにもよろしく伝えといてね!

ライラより』