アダルフォはそう言って、もう一度ゆっくりと頭を下げる。相変わらず口調は淡々としているし、表情だって冷たいというか無というか、何とも表現しづらい顔をしている。
 だけど、彼が本当に申し訳ないと思っていることだけはひしひしと伝わってきた。


「ううん。悪いのはわたしの方だもの。アダルフォは何も悪くないわ」


 そう口にしつつ、気持ちが随分浮上していることに気づいた。


(アダルフォは本当に何も悪くない)


 アダルフォは自分のすべきことをしただけ。
 その上で、彼はわたしの気持ちに寄り添ってくれた――――そのことがあまりにも嬉しい。


「姫様――――これから姫様は、色んな場面でご自分を押し殺して生きていかなければならないと思います。だけど、俺の前では今の――――ありのままの姫様で居てください。
今度からはきちんと受け止めます。隠す必要も、一人で苦しむ必要もございません。
俺が護るべきはあなたの身体ではなく心なのかもしれないと、今気づきました」


 そう言ってアダルフォは、わたしの目の前にハンカチを差し出す。刺繍も何も施されていない、素朴なハンカチだった。手に取ったその瞬間、涙が再びポロポロと零れ落ちる。


「――――――ありがとう、アダルフォ」


 だけどその涙は、さっきまでとは違う温かい涙だった。