「バッカじゃないの」


 思わずそんな言葉が口を吐いた。こんな風に吐き出さなきゃ、怒りで頭がおかしくなってしまう。心と身体は既にどす黒い感情に侵食されて、ずどんと重くなっていた。


「そのようなこと、軽々に口にすべきではございません」


 その時、部屋の片隅からそんな言葉が聞こえた。感情の抜け落ちた、至極冷静な声音。先程紹介されたばかりの騎士――――アダルフォだ。


「状況次第ではございますが、姫様でも不敬に問われる可能性がございます。御身を大事になさらないと――――」

「大事よ! 大事だからこそ、こうやって吐き出してるの!」


 気づけばわたしはそんなことを叫んでいた。胸のあたりがムカムカと気持ちが悪い。ほんのりと目を見開いたアダルフォを尻目に、わたしは再び口を開いた。


「教えてよ、アダルフォ! 貴族は皆こんな風に扱われても平気なの⁉ 
十六年間も存在を隠してきた癖に、後継者が居なくなった瞬間『おまえは王族』だなんて手のひら返すようなこと言われて! 家に帰れなくなって! 挙句の果てに王位を継げだなんて……! ねぇ、アダルフォだったら平気? 貴族なら――――普通の人なら『はいそうですか』って受け入れるものなの? 
感情を殺して、王様の言うことなら何でもイエスで答えて、ただの駒として生きていくの? これまで平民として生きてきたわたしにまで、いきなりそれを求めるの?」


 言いながら涙が零れ落ちる。
 初対面の人に当たり散らすなんて最低な行為だ。それでもわたしは、自分自身を止められなかった。