その日、宮殿の空気は凛と張り詰めていた。

 鳴り響くファンファーレ。真紅色をしたベルベットのケープをドレスを着た美しい女官達が持ち、扉が開くその時を、固唾を飲んで待っている。


 わたしは今日、王太女に即位する。


 ゆっくりと、大きく深呼吸をし、目配せを一つ。


「参りましょう」


 女官たちを振り返れば、「はい!」と答えが返ってくる。
 それを合図に、広間へ続く扉が開いた。


 ずらりと並んだ参列者達。
 視線が一斉に集まる。


 ここまでに尽力してくれた、たくさんの人々の顔を思い浮かべつつ、わたしはおじいちゃんの元へと向かう。


 おじいちゃんは眩しげに瞳を細め、わたしのことを待っていた。目尻がほんの少しだけ光った気がして、わたしは内心微笑みを浮かべる。

 厳格で誇り高く、冷徹な国王。
 けれど、おじいちゃんだって本当は、誰にも見せられない弱さや迷いを抱えている。
 これからはわたしが隣に立って、おじいちゃんを支えていかなきゃいけない。


 胸元にはお父さん――クラウス殿下がゼルリダ様に贈った大事な宝石が輝く。
 わたしは二人の優しさに支えられ、幸せな日々を過ごすことができた。貴族や王族のしがらみから逃れ、伸び伸びと。
 普通の女の子として生きることができた。


 今度はわたしが、誰かの幸せを守る番。
 最前列で涙を流す、お父さんとお母さんに向かってそっと微笑む。