「しかし、嬉しいですね。そんな風に想っていただけるということは、ライラ様も僕を想っている――――そんな風に自惚れても良いですか?」

「へ……なんで? どうしてそんな風に思うの?」


 想像もしていなかった返答に、わたしは目を白黒させる。
 そりゃ、婚約者に選んだぐらいだし? 憎からず想ってますけど――――とは言えない。つくづくわたしも素直じゃない女だ。


「だってそうでしょう? 自由にして良いと言われるより、余程愛情を感じます。
心配せずとも、僕は既にライラ様のものです。生涯、貴女だけのものです」


 そう言ってランハートはわたしのことを抱き上げる。彼よりも目線が高くなり、わたしは思わず息を呑む。
 

「――――わたし、これでも結構モテるんだから。わたしが悲しんだらアダルフォが黙ってないし。
バルデマーだって『王配になれなくてもわたしの愛がほしい』って言ってたぐらいで」


 ……って、何を言ってるのわたし!
 言った側から羞恥で顔が真っ赤になる。

 だけど、ランハートは目を丸くすると、困ったように笑いながらわたしを抱き止める。


「それは……絶対に余所見できないよう、しっかりと捕まえておかないといけませんね」


 視線が絡む。
 ランハートの言葉が胸に響き、わたしは思わず目を瞑る。


(幸せになりたい)


 それは心の奥底に眠っていた願い事。

 わたしはこれから、王太女として、おじいちゃんと共に国を率いていく。
 普通じゃダメ。王族として、ときに自分を殺し、人々のために生きていかなきゃならない。

 だけど、ランハートと一緒なら。
 わたしはただのライラに戻れる。

 隣を歩きながら、一日のうちのほんのひとときでも、普通の女の子として、幸せに過ごせる気がするから。


(わたしは、わたしらしく)


 平民として生きてきたわたしも、これからのわたしも、等しく大切にしていきたい。
 はじめての口づけを受け入れながら、わたしは満面の笑みを浮かべるのだった。