【少し遠出をしませんか?】


 ランハートから手紙が来たのは、それからすぐのことだった。
 王太女の即位を直前に控えている最中、外出するほどの時間は取れないだろう――――そう思っていたら、文官たちは揃って首を横に振った。


「既にスケジュールは確保してあります。どうぞ、行ってらっしゃいませ」


 同時進行で、侍女達がわたしの身支度を整えていく。皆一様に張り切った表情で、手順に一切の迷いがない。


(あれ?)


 ドレスを着替えながら、わたしは一人首を傾げる。いつも身につけているきついコルセットを外され、柔らかな布が身体を包む。上等な布地ではあるけれど、普段着ているものとは質が違う。

 これは姫君が身につけるドレスではない。平民の出で立ちだ。


「準備は進んでます?」


 着替えが終わったタイミングで、ランハートがひょこりと顔を覗かせた。ドギマギしているわたしにはお構いなく、彼は上から、満足気にわたしのことを眺めている。


「ランハート様、姫様の準備はまだ終わっておりません。髪型やお化粧、女性の準備には時間がかかるものですわ! このように覗きに来られては困ります」


 エリーの抗議に、ランハートは困ったように微笑む。


「失礼。待ちきれなかったものですから」


 そう言って彼は、わたしのつむじに口づけを落とす。胸がモヤモヤと疼く中、わたしは鏡越しにランハートを見上げた。


「時間はかかって構わないので、最高に可愛く仕上げてくださいね」

「それはもう! わたくし達侍女のプライドをかけて!」


 エリーが胸をどんと叩く。