「わたしだって……わたしだって本当は、結婚相手にはわたしだけを愛してほしいって思っているわ」


 姫君になったから――――国の未来を背負うことになったから。
 だからこそ諦めていたけれど、わたしだって本当は、妻として大事にされたい。


 わたしを育ててくれたお父さんとお母さんは、互いを慈しんでいるし、心から愛し合っている。そんな夫婦に憧れるのは当然だ。


 だけど、わたしとの結婚は愛ゆえのものではないから。
 ランハートも、バルデマーも、『王配という地位』と結婚をしたいんだってわかっていた。

 愛されたいなんて思っちゃいけない。ずっとずっと、自分にそう言い聞かせていたのに。


「クラウスとペネロペを引き裂いた私に言えることではないが」


 おじいちゃんはそこで言葉を区切る。苦し気な表情。見ているこちらまで苦しくなってくる。


「お前には幸せな結婚をしてもらいたいと願っている。愛し、愛され、互いを心から想い合える男と幸せになってほしい。
それはきっと、私だけの想いではない。民の願いだとも思っているよ」

「おじいちゃん……」


 まさか、おじいちゃんがそんな風に言ってくれるだなんて、思ってもみなかった。国のために、わたしを平民から無理やり王女にしたのが嘘みたいだ。


「それから、私の考えを変えてくれたのはライラ――――他でもないお前自身だ。
だからもう一度、自分がどうしたいのか、よく考えると良い」


 おじいちゃんが口にする。
 唯我独尊――――そんな言葉がぴったりな人だったのに、わたしの考えを尊重してくれるようになるなんて……。


「わかった。もう一度よく、考えてみる」


 そう返すと、おじいちゃんは目を細めて笑った。


(わたしの気持ち……)


 これからどうしたいのか。
 きちんと向き合うことは少しだけ怖い。

 だけど、ぐっと胸を張り、前を向く。
 そんなわたしを、おじいちゃんが満足そうに見つめていた。