「そういうおじいちゃんはどう思うの?」

「質問を質問で返すな。私はお前の意見を問うているのだ」


 鋭い眼差し。譲歩してくれる気はないらしい。わたしは小さくため息を吐いた。


「相手を変える気はないわ。だって、わたし自身が選んだ人だもの。
ランハートが、わたしが王太女になるにあたって、必要な人だと思った。的確だと思った。それなのにコロコロ相手を変えたいと思うなんておかしいでしょう?
そもそも、ランハートが本当に逢引をしていたのか――――事の真偽もわからないし、それを確かめる気だってないのよ?」

「今回の件が勘違いとして、その先は? もしもあいつがお前を愛することなく、他の女ばかりを愛したら? ライラ、お前は平気なのか?」


 ズキンと胸が痛む。
 我が祖父ながら、なんとも意地が悪い。愛する孫娘にしていい質問じゃないと思う。


「醜聞に――――国の恥にならないよう、密かに遊ぶなら良いんじゃない? 貴族って、そういうものなんでしょう?」

「――――模範解答だな」


 そう言っておじいちゃんは小さく笑う。良かった。幻滅はされなかったらしい。ホッと胸をなでおろしていると、おじいちゃんは「でも」と言葉を繰り出した。


「本当にそれで良いのか?」

「……え?」


 思わぬことに目を見開く。わたしは静かに息を呑んだ。


「ライラよ。お前は平民王女だ。平民として育ち、彼等の生活や心、願いを知る唯一の王族だ。それなのに、己の気持ちから顔を背けて良いのか?」


 おじいちゃんに言われた言葉の中で、過去一番、心にぐさりと刺さる。


 わたし自身の声、気持ちを大切にしないこと――――それは、民の声に耳を塞ぐということだ。

 貴族や王族の常識に囚われ、悪しき風習すら黙って呑み込んでしまう。
 それが本当に正しいことなのか? おじいちゃんはそう尋ねているのだ。