「それから、もう一つ、ライラ殿下に誓いを立てたいことがございます」

「……誓い? 何?」


 内心どぎまぎしつつ答えれば、バルデマーはそっと目を細めた。


「たとえ殿下の配偶者になれずとも、私はいつか、貴女の愛情を勝ち取ります。ランハート様よりも私を愛していただけるよう、己を磨き、殿下に尽くし、虎視眈々とその座を狙い続けましょう。
今度は本気です。私は貴女の愛がほしい」


 その瞬間、心臓が勢いよくドキッと跳ねる。指先に口付けられて、身体が一気に熱くなった。


「な……な、な…………!」

「それでは、今日はこれで失礼いたします。親愛なる、ライラ殿下」


 バルデマーは蕩けるような笑みを浮かべ、颯爽と踵を返した。ドアが閉まる音を聞きながら、わたしはソファに崩れ落ちる。


(何それ、なにそれ!)


 こんなの絶対反則だ。これまでの何倍も、何十倍も手強い。情けないほどドキドキしてしまった。
 本気で心を入れ替えているみたいだし、今のバルデマーなら或いは……


(いけない)


 ついついそんなことを考えている自分に気づき、ハッとする。


 わたしが結婚するのはランハート。自分自身の手で選んだ、王配にふさわしい人物だもの。
 今更そんなことを思うなんてどうかしている。邪念を振り払うべく、わたしは首を横に振った。


(だけど)


 次にランハートに会った時、わたしはいつもどおりに笑えるだろうか? 何事もなかったように、振る舞うことができるんだろうか?

 残念だけど『大丈夫』だって、自信を持って言えそうになかった。