「ときには能力や熱意よりも、大事なものが存在する。父が私に関心を向けなかったのは当然です。彼の望みは能力とは別のところにあったのですから。
父は愛情を――優しさを――他人を思いやる心を求めていました。弟を忌み嫌い、まるで存在しないかのように振る舞い、歩み寄ろうとしなかった私には、決して持ち合わせていなかったものです。父に認められないのは当然でした」


 バルデマーはそう言って、自嘲気味に笑う。

 大丈夫。彼はきっと、これからもっと成長する。
 元々実力はある人だもの。いくらでも自分を変えていける。
 もしかしたら、歴代最高の宰相にだってなれるかもしれない。そう思うと、なんだかとても嬉しくなった。


「姫様――――いいえ、ライラ殿下。そのことに気づかせてくださったのは貴女です。心からお礼を申し上げます。
私はこれから心を入れ替え、誠心誠意、殿下のために働きます。いつか、貴女の左腕になれるよう――――貴女の隣を歩くことを許していただけるよう、精一杯努めたいと思います」


 バルデマーはわたしの傍に跪き、真っ直ぐにこちらを見つめる。
 彼に跪かれたことは幾度もある。だけど、これ程までに真摯で、心からの敬愛を感じたのは初めてだ。


「期待しているわ、バルデマー。貴方はいつか絶対、一番になれる人よ。どうかその熱意で、一緒に国を引っ張っていって。その日が来るのをとても楽しみにしているわ」

「はい、必ず」


 そう言って彼は、わたしの手の甲に口付ける。いつになく熱い唇に驚けば、バルデマーは悪戯っぽく微笑んだ。