「母の最後の願いだったのです。一番になってほしい、と。
姫様もご存知かと思いますが、私には一歳違いの弟が居ます。母親が違う――――父の愛人が産んだ子どもです。
幼い頃から、私達兄弟は比べられてきました。容姿にはじまり学問や武芸、芸術方面や、ありとあらゆる素養を。
無論、全てにおいて秀でていたのは私の方です。そうあれるように努力もしましたし、当然のことだと思っています。
けれど、父の愛情が私――母に向くことは一度たりともありませんでした。結果、母は心を患い……」


 バルデマーの告白に、わたしは小さく目を瞠った。
 彼の家族構成は当然知っている。だけど、その内情は本人たちにしかわからない。隠したがっている事実なら尚更だ。


「文官として働き始めたのは、家の外で自分の実力を試したかったからです。弟以外の人間と、自分を比べたい。
結果、私は確固たる自信を得ました。自分が思っていたよりも、私は秀でていた。他人よりも……誰よりも――――そんな風に思えたのです。
ここでなら、母の願い通り、私は一番になることができる。
そんな時、クラウス殿下が亡くなり、私は姫様と出会ったのです」


 バルデマーはそう言って、穏やかに微笑む。悲しみを湛えたその表情に、胸が小さく軋んだ。


「クラウス殿下は私を認めてくださっていましたし、私には国を率いていくだけの実力がある。絶対に王配に選ばれる――――選ばれなければならないと思っていました。
けれど、結果は弟の時と同じ。姫様は私ではなく、ランハート様をお選びになりました。
考えるに、私には相手の望みを想像すること――――気持ちを慮る能力が欠如していたようです」

 わたしは静かに息を呑む。
 バルデマーは本当に、自分自身を見直したんだ。己に足りないものが何なのか、本気で。