しばらくしてから、バルデマーが部屋へと案内された。


「ご無沙汰しております、姫様」


 彼らしくないどこか自信なさげな表情。なんだか申し訳なくなってしまう。


「久しぶりね。元気にしていた?」


 尋ねつつ、エリー達が淹れてくれたお茶を飲む。
 バルデマーは問いかけには答えなかった。嘘を吐きたくないのだろう。どこまでも不器用な彼の姿に、なんだか親近感を覚えてしまう。


「心の整理をしてまいりました」


 ポツリと、呟くようにバルデマーは言う。


「正直私には、どうして自分が選んでいただけなかったのか、わかりませんでした。自分がランハート様よりも劣っているとは思えませんでしたから」


 その瞬間、ズキッと小さく胸が痛む。
 今、ランハートの話をされてしまうと結構辛い。だけど、決して表情には出さないよう、わたしは真っ直ぐにバルデマーを見つめ続けた。


「けれど、先日姫様に言われて気づいたのです。私は、自分自身が国王になろうとしていたのだと。貴女の前を進もうとしていたのだと」


 バルデマーの瞳が悲し気に揺れる。
 きっと、後悔しているのだろう。もっと早くにそのことに気付けていたら、今頃結果は違ったんじゃないかって。


「ねえ、どうしてバルデマーはそんなに王配になりたいの?」


 ずっと不思議だった。何が彼をそんなにも駆り立てるのか。
 そりゃあ、人間誰しもある程度の権力欲を持ち合わせているのかもしれないけど、バルデマーのそれは少しだけ異質に感じられたから。