(ごめんね、アダルフォ)


 彼がわたしのために憤ってくれたこと、動こうとしてくれたことはわかっている。
 もしもわたしが『ただのライラ』だったなら、きっと嬉しく思っただろう。

 だけど、わたしはこの国の姫君で、もうすぐ王太女になるんだもの。
 色恋に心を揺らしちゃいけない。そんなことを理由にトラブルを起こすのもご法度だ。

 おじいちゃんやランハートだって、この程度でわたしが腹を立てたら驚くだろう。もしかしたら、幻滅してしまうかもしれない。

 そんなの嫌。
 絶対に嫌。
 だからわたしは前を向く。

 私室への道のりを悠然と歩きながら、なんでもないふりをする。
 王族っていうのは誇り高い生き物だもの。そうあるべきだって教えられたもの。
 わたしも、お父さんやおじいちゃん、ゼルリダ様みたいに生きていかなきゃいけない。

 それが正解だってわかっている。

 だけどダメね。
 一歩歩くごとに胸がズキンと痛む。
 所詮わたしは平民王女。他の皆みたいには生きられないのかもしれない。


 アダルフォはそんなわたしの姿を見て、かける言葉が見つからなかったんだろう。何度も口を開け閉めつつ、黙ってわたしの後ろを歩いていた。

 正直今は、どんな言葉をかけられても、返答に困ってしまうだろう。

 一緒になってランハートを責めることもできなければ、擁護することだって難しい。慰められたところで、悲しくなるだけだ。

 とても情けないことだけど、わたしにだってプライドはある。こういうときはそっとしておいてほしい――――そんなことを思ってしまった。