「俺、もっと頑張るよ。いつかライラの警護も担当できるよう、精進する」


 エメットの口からこんな言葉を聞ける日が来るなんて、思ってもみなかった。
 どうしよう。目頭が熱くなっちゃうじゃない。


「期待してるわ」


 返事をし、エメットと一緒に微笑み合う。

 人は変われば変わるもの。
 エメットも、それからわたしも。


***


「ねえ、アダルフォ。エメットはいつか、わたしの護衛騎士になれると思う?」


 帰り道、アダルフォと長い回廊を歩きながら、そんなことを尋ねてみる。


「ええ、きっと。
想いは人を強くしますから」


 そう応えるアダルフォの表情は温かい。

 彼もまた、この数か月で大きく変わった人の一人だ。

 最初はどこかぶっきら棒で、取っつきにくいというか。わたしの行動を諫める場面も多かったけど、今や海よりも広い心でわたしを見守ってくれている。
 何だかとても嬉しくて、わたしはそっと微笑み返す。

 本当にたくさんの人達が国のため、わたしのために頑張ってくれている。腐ってちゃいけない。気合を入れなおさなきゃ。

 ――――そう思ったその時だった。


「…………え?」


 視界の端にスラリとした長身の男性と、艶やかかつ華やかな御令嬢が映る。二人はしばし向かい合って談笑したかと思うと、男性側が女性を部屋の中へと迎え入れる。
 顔はよく見えないけど間違いない。

 あの部屋はランハートが城内に与えられている部屋だ。


「ライラ様」


 困惑した表情でアダルフォがわたしを見遣る。


(どうしよう)


 気づかない振りをしなくちゃ――――ううん、せめて何か言わなきゃって思うのに、返す言葉が見つからない。


 人は変われば変わるもの。
 だけど、中には変わらない人も存在する。


 わたしはしばらくの間、その場に立ち竦んでいた。