(恵まれてるなぁ)


 王太女としての最初の一歩で躓けば、幸先が悪い。
 だから周囲はわたしが転ばないよう、躓かないよう、最大限の準備をし、何度も何度もシミュレーションをしながら、最善を尽くしてくれている。


「ありがとう、シルビア」


 そう口にしながら、心がほんのりと温かくなる。

 本当はシルビアに対してだけじゃなく、この城で働いている全ての人達にお礼が言いたい。


 儀式を目前にして、わたしがこうして穏やかに日々を過ごせているのは、皆の努力のたまものだ。

 わたしが過度に緊張しないようリラックスできる環境を作り、メリハリの付いた日々を送れるようにスケジュール管理をし、やるべきこと・覚えるべきことを最小限に絞り込んで、たくさんたくさん心を砕いてくれてるんだもの。


「わたし、頑張るよ」


 お世話になった全ての人に声を掛けることは出来ない。だけど、想いを返すことは出来る。
 王太女として最善を尽くすこと。皆が暮らすこの国を、豊かで活力があり、幸せなものにすることが、わたしに出来ること、すべきことなんだと思う。


「なんか……お前、変わったな」


 しみじみとした表情でエメットが言う。わたしは思わず目を丸くした。


「そう?」

「そうだよ。この間里帰りしてた時も思ったけど……あの時よりもずっと、大人っぽい顔をしてる」


 エメットはそう言って、胸に手を置き膝を突く。騎士としての最敬礼だ。まだまだぎこちないけど、彼がわたしに敬意を払っていることは伝わってくる。