『なにを言っているんだい? 君は僕の願いを叶えてくれただろう?』


 クラウスはそう言って幸せそうに笑う。私の頬を撫で、それからそっと涙を流した。


『ゼルリダ――――君のお陰で、ライラは今日まで自由に生きることが出来た。もしもあの子を城に呼び寄せていたら、君はもっと心安くいられただろう? 跡継ぎを望む声に悩まされることもなかった筈だ。それなのに、君はいつも自分が悪者になって――――僕の願いを叶えてくれた。本当にすまなかった』


 涙が零れる。伝えたいことは沢山ある筈なのに、言葉にならなかった。ありがとうも、ごめんねも、まだまだ全然言い足りていない。こんな時まで私は、どうしようもない出来損ないで。


『最後にワガママを言っても良いかな?
ライラが――――もしもあの子が王族としての生活を望まないなら――――自由にしてやっては貰えないだろうか?』


 夫の言葉に息を呑む。
 彼が亡くなれば、お義父様は間違いなくライラを王女として迎え入れるだろう。私やランハートではなく、クラウスの血を継いだ孫娘を、次の王にと望むに違いない。
 けれどそこには、あの子の意思も、夫の意思も、反映されることは無い。ただ国を護る駒として、ライラは生きていかざるを得なくなる。


『約束します』


 何も出来なかった私だから。
 せめてもの罪滅ぼしに、その位はさせて欲しい。
 それが、あの人の最後の願いだから――――。