招待客たちが居なくなり、ライラと二人きりになった庭園はやけに静かだった。
 何も指示をしていないのに、侍女達が新しいお茶を運んでくる。二人で隣り合って座り、しばらくの間どちらも口を開かない。


「――――やっぱり血は争えないわね」


 先に沈黙を破ったのは私の方だった。
 ライラは小さく目を見開き、それから困ったように首を傾げる。


「それってわたしがおじいちゃんに似ているってことですか? それともお父さん?」

「両方よ。嫌になる程似ているわ」


 答えつつ思わず苦笑を漏らせば、ライラは静かに目を伏せた。


 物心がついてから一度も会ったことが無いなんて嘘のよう。ライラは夫に――――クラウスにそっくりだった。

 一見おっとりとしているように見えるのに、本当は物凄い頑固者。己がこうすると決めたら、敵を作ってでも絶対に考えを曲げはしない。




『僕の妃はゼルリダだけだよ』


 クラウスの声が頭の中で木霊する。
 死の間際、彼の枕辺で謝罪する私に掛けてくれた言葉だ。

 私は彼の子供を産めなかった。原因は明らかに私にあるというのに、夫は私以外の側妃を娶ることも、離縁もしない。

 申し訳なかった。妃としての務めを果たせないことが。
 愛情深い彼に、惜しみなく愛を注ぐことの出来る存在を与えられないことが。

 彼の願いを何一つ叶えてあげられない出来損ないの妃なのに、私は妃の座を――――彼を手放すことが出来なかった。