「わたくしも恩恵にあずかっておりますのよ。品質も素晴らしく、羨ましい限りですわ。
天候ももちろん大事でしょうが、やはり作物を育む土壌こそが、一番大事ではございませんこと? 種だけでは実は育ちませんものね。妃殿下もそう思いません?」


 夫人はそう言って、ゼルリダ様に向かって微笑む。


(んん、これは……!)


 流石は貴族。厭味ったらしいったらありゃしない。
 土壌だとか種だとか作物だとか言ってるけど、とどのつまり彼女は、子どもを産むことのできなかったゼルリダ様を遠回しに批判したかったのだろう。


「本当に羨ましいわあ。わたくしも領地を交換出来たら或いは……いいえ、こんなことを考えるのは野暮ね。どんなに願ったところで、詮無き事。既に『種』は無いのですし」

「……っ!」


 あったまきた! なんて下品な人なの!
 唇を尖らせると、ゼルリダ様は無言のまま、扇子でわたしの膝を叩いた。黙っていろと言いたいらしい。

 だけど、お父さんが亡くなったこと、子どもが出来なかったことをこんな風に言われて、ゼルリダ様は悔しくないんだろうか?


(確かこの人、お父さんの妃候補だったのよね)


 事前に目を通した資料を頭の中で思い浮かべながら、わたしは静かに目を瞑る。
 ゼルリダ様に負けたから。自分が妃になれなかったから、こうして嫌味を言うことで鬱憤を晴らしているのだろう。


「あら、無い物ねだりをするのは勿体ないように思いますわ」


 黙ってろって言われたけど、やっぱりわたしには無理。若く無知に見えるからこそ出来る仕返しってあるし、ゼルリダ様がしないなら、わたしがやらなきゃ。


「夫人の領地では、織物が盛んでございましょう? 職人たちも素晴らしいと聞き及んでおりますもの。他の領地を羨むなんて、勿体ないことですわ」


 そう言って微笑めば、周囲はホッとした表情を浮かべる。
 けれど、相手はそれじゃ怯まなかった。困ったように首を傾げながら、ふふんと底意地の悪い笑みを浮かべる。