『……言っておくけど、私の茶会があなたの息抜きになることは無いわよ』


 ゼルリダ様がこう口にした理由。
 恐らく彼女にとっての社交は、楽しいだけのものではないのだろう。

 幸いなことに、今わたしの周りに居る人は、優しくて明るくて良い人ばかりだ。おじいちゃんが人選を重ねた結果ではあるけれど、本当に側に居て心地が良く、温かくなれるような人しか存在しない。

 だけど、社交――――王太子妃っていうのは、好きな人とだけお付き合いすれば良いという訳ではない。情報のため、将来の公務に向けた地盤を固めるため、嫌な人も己の懐に入れ、上手く付き合っていかなければならない。

 もちろん、それは王太女も同じだって分かってるけど、お互い完全に『仕事』だって割り切れるから、幾分マシだって話を聞く。
 社交って言うのは、仕事とプライベートの中間というか。完全に『仕事』にしてしまうのも、苦しいものがあるのかなぁって。


「――――これでもわたし、一応姫君らしいので」


 ポツリとそう口にすれば、ゼルリダ様はほんの少しだけ肩を震わせ、こちらを見遣る。


「王太女としての役割だけを熟すつもりはありません。社交もしっかり担っていきたいんです。勉強、させてください」


 ゼルリダ様だけに重荷を背負わせるつもりはない。言外にそう伝えたら、彼女は何も言わないまま、静かに目を瞬かせる。


「勝手になさい」


 やがて、ゼルリダ様はわたしだけに聞こえるような小さな声でそう言った。彼女の声は、心なしか小さく震えているし、何だか優しい。


「……はい。勝手にします」


 応えながら、わたしは口元がにやけるのを止めることが出来なかった。