視線が痛い。風も吹いていないのに、空気がとてつもなく冷たい。


(そんなに怒らなくたって良いじゃない)


 必死に気づかない振りをしながら、隣に並んで城内を歩く。
 どちらかと言えば、可哀そうなのはわたしよりもエリーや侍女達だ。絶妙な空気感の中、わたし達を見守ることしかできないんだもん。胃が痛くなってしまいそう。


「――――あなたには他にすべきことが有るでしょう?」


 会場が近づいて来たその時、いよいよ我慢が出来なくなったらしい。ゼルリダ様が地の底を這うような声音でそう口にする。


「いいえ。すべきことはきちんと熟してから来ていますし、これだってわたしのすべきことですから」


 大丈夫。昔ほど怖いとは思わない。
 しっかりと自分の気持ちを主張すれば、ゼルリダ様は小さく息を吐いた。


「後継者教育は?」

「即位までのカリキュラムは終わりました。学び足りない部分については、資料を大量に貰っていますのでご心配なく。ちゃんと時間を見つけて読んでいます」

「式典の打ち合わせは?」

「順調です。文官の皆が頑張ってくれています」

「シナリオは? きちんと頭に入っているの?」

「はい。問題ございません」

「スピーチは?」

「…………大丈夫です」


 ほんの少しだけ生じてしまった間を、ゼルリダ様は聞き逃してくれなかった。眉間に小さく皺を寄せ、わたしのことを睨みつける。